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§肥効調節型肥料を用いたねぎの全量基肥局所施肥法
山形県立農業試験場 化学部
研究員 今野 陽一
§水稲の全量基肥施用法における施肥診断
愛知県農業総合試験場 作物研究所
技師 今井 克彦
山形県立農業試験場 化学部
研究員 今野 陽一
昔から,農業は天然資源を有効に利用し,各農耕地の有機的連鎖により自然と人間の調和を図る方向で営まれ,環境を保全する産業と言われてきた。しかし,近年になり経営的収益性を追求した結果,自然との調和は崩れ,環境に対し負荷を与え始めた。
特に,露地畑土壌では施肥の効率が低く,栽培する作物の吸収量以上の肥料が投入される傾向が強い。そのため,作物に利用されなかった肥料成分,なかでも硝酸態窒素の溶脱や流亡による地下水や河川等の水質汚染,亜酸化窒素ガスによる大気汚染などが社会問題視されている。
そのため,施肥効率を高め過剰な施肥を抑え,肥料成分の農業系外への流失を防ぐ方策が重要となる。
一方,社会の多様化にともない農業構造も急変し,後継者の絶対的な不足と担い手の高齢化が進み,作物の肥培管理を適期に行えない状況が生じている。
そうしたなか,時代のニーズに応えるかのように数年前から,合成樹脂等によって物理的に肥料成分の溶出を制御し,作物の生育に応じた養分供給を可能とするいわゆる「コーティング肥料」あるいは「肥効調節型肥料」と呼ばれる高性能な肥料の開発が進んできている。
また,これらの肥料の効果的な利用方法として作物の種子あるいは根と肥料を近接的でしかもいっしょに施用し,溶出してくる肥料成分を無駄なく作物に利用させる「接触施肥法(CO-Situs Application)」が東北大学の庄子らにより提唱されている。
本稿では,全国的に周年を通して需要が多く,本県では秋の風物詩である「芋煮会」シーズンには里芋や牛肉とともに欠くことのできない材料である「ねぎ」を取り上げ肥効調節型肥料を用いた施肥法を検討した結果,時代の要請である「環境にやさしい施肥法」として普及に移すことができたので報告する。
これまでねぎ栽培における施肥法は,基肥として速効性肥料を全面全層施肥し,中耕・土寄せごとに3回程度の追肥を行うという体系が採られてきた。
それに対し,今回報告する肥効調節型肥料を用いた全量基肥局所施肥法は,ねぎの栽培期間に必要とされる肥料の総量を,あらかじめ畝立てした移植溝に施用しその上に苗を直接移植する方法である。その結果,中耕・土寄せ時の追肥の手間も省くことが可能となる。
これまでも速効性肥料を利用した移植溝への施肥が行われていたが,その場合,肥料に直接ねぎの根が触れないように緩衝的な覆土を行ってから苗を移植したり,移植した苗からやや離れた部分に肥料を施用する等の配慮が必要であった。
試験に供試した肥料はロング424 M100(14-12-14,以下ロングと省略)及びシグモイドタイプのスーパーロング424-M100(14-12-14,以下Sロングと省略)の2種類である。
溶出試験として肥料現物(5g)を寒冷紗製の小袋に入れ,ねぎの移植と共に作土層の地表下約10cmに埋設し,随時回収しながら残存窒素量を求め溶出率を算出した。
栽培試験は次の条件下で行った。
1)土壌条件:褐色森林土
2)供試品種:吉蔵
3)移植日:1994年6月2日
4)栽植密度:5万本/10a
5)収穫日:1994年10月18日
6)試験区施肥設計:表1のとおり

全量基肥局所施肥法は,肥料の利用効率を高め極力無駄な施肥を避けるという狙いがあるため,試験区の施肥量はすべての区で慣行対比20~40%の減肥となるよう設定した。
また,重窒素を用いて,施肥法の違いによる肥料の利用率を調査した。
図1は移植から収穫までの供試肥料の溶出経過である。ロングは移植直後から溶出を開始したのに対し,Sロングはその溶出特性ゆえに移植後約1カ月間はほとんど溶出が認められなかった。収穫(積算地温:3542℃,経過日数:138日)までの総溶出率はロング,Sロング共に85%であり栽培期間をほぼカバーすることができ,肥効切れは認められなかった。

なお,1994年度は記録的な高温年となり圃場が極端に乾燥したため,その影響を受け溶出がやや遅れる傾向が見られたが実用的に問題はなかった。
表2は第3回目の土寄せまでの生育である。第1回目の土寄せを行った7月12日の時点ですでに各試験区の生育が慣行区を上回っている。生育中期頃の8月12日になると肥料の溶出特性により初期溶出が遅いSロング区の生育がロング区に比べ遅れ始め,これが収量にも影響を及ぼすこととなる。

写真1は8月12日の時点で最も生育ボリュームの大きかったCDU5+ロング15区の根の写真である。この写真からは判別し難いと思われるが,根の周辺部に存在する白っぽい粒が肥料である。ちょうど根が肥料の粒子を包み込むあるいはつかむような形になっている。そのため,肥料成分が無駄なく安定して供給されるものと考えられる。

ねぎの根は肥料焼けしやすいと言われるが,この状態でもなんら障害は認められず健全に育っている。
表3は収穫時までの窒素吸収量の推移である。ロングを用いた各試験区での吸収量は比較的作物体の小さい生育初期から中期にかけては大きな差は認められなかったが,作物体が大きくなる後期から収穫期に入ると施肥量やスターターとしてのCDUの有無により差が認められるようになる。Sロング区については初期溶出が遅れる分各時期の吸収量もロング区を下回った。

写真2は収穫より約1カ月前頃の慣行施肥区とCDU5+ロング15区のねぎを比較したものである。草丈,茎径ともに明らかに慣行施肥区を上回り,どっしりとした感のねぎとなっている。

表4は収穫時の生育である。慣行区に比べ各試験区では茎径,重量ともに大きくなっている。最終的な窒素吸収量の多い試験区ほど大きくなる傾向が認められ,CDU5+ロング15区で最大となった。Sロング区の生育は,生育後期に入り溶出量が急速に増加したにもかかわらず,最終的にロング区に及ばなかった。

黒斑病,べと病等の病害や害虫の発生による被害は慣行区同様認められなかった。
表5には収量を示した。生育を反映し,ロングを用いた試験区ではどの区も慣行区を上回り,CDU5+ロング15区では慣行対比で20%の減肥でも慣行対比133%の高い収量を確保した。また,商品価値の高いL企画品の占める割合も高くなった

なお,スターターとしてCDUを組み合わせた区は約5%程度の増収となったことから,安定した生育・収量を確保するにはスターター(CDU)は必要であると考えられる。
また,ねぎは生育中期以降より多くの養分を必要とすると言われるため,初期溶出が少なく中期以降に溶出量が増大するSロングの方がよりねぎの生育にマッチすると考えられたが,本試験においては苗の移動直後からコンスタントな溶出を見せるロングの方が結果的にねぎ栽培に適していた。
表6は施肥法の違いによる肥料の利用率である。慣行施肥区の各時期の利用率は約4~15%で最終的な施肥量に対する利用率は9.8%であった。それに対しロングを用いた全量基肥局所施肥区では最終的な施肥量に対する利用率は59.8%と高く慣行対比で約6倍となった。この利用率の高さがねぎの生育に反映されたと考えられる。

従来,ねぎ栽培は肥料焼け防止の観点から全面全層施肥を基本とし,中耕・土寄せごとに追肥が必要であったが,本試験の結果より肥効調節型肥料を用いた全量基肥局所施肥が十分に実用可能な技術であると考えられる。今後は,ねぎの移植機との組み合わせを予定しており,将来的にはねぎの高能率機械化一貫施肥体系への発展を構想している。
肥効調節型肥料は,その被覆資材や温度等の使用条件の違いにより成分の溶出パターンが異なってくる。そのため,あらかじめその肥料の溶出パターンを把握し,作物の生育に最適なものを選択する事が重要なポイントとなる。
また,今後さらに被覆資材等の改良が進められ,多成分の溶出を高度に制御可能とする肥料の登場も十分に考えられる。
そうした場合,これらの肥料の性能を十分に理解し,正しく使用してこそ,効率的で省力的な肥培管理技術の確立が可能となるわけである。
これからの農業は,生産性のみを追求するだけでなく,生産性を向上させつつ農業が本来持っている物質循環機能を生かして環境への負荷を軽減させる事への配慮が重要となる。
従って,従来からの農業技術を正当に評価しながら新しい資材や技術の開発を進め,農業技術体系全般を農業経営と環境保全の両立が図られる方向へシフトさせてゆく努力が必要である。
本稿で提示した局所施肥法を含む肥効調節型肥料を用いた接触施肥法は,従来では考えられない新しいタイプの施肥法と言うことができ,将来的には施肥法の主流となってくると思われる。今後,様々な作物栽培の場面での利用が大いに期待されるものである。
愛知県農業総合試験場 作物研究所
技師 今井 克彦
前報(農業と科学,1月号,1994年)では,愛知県における全量基肥施用法について,開発までの歩みと特徴について紹介した。
その後,全量基肥栽培が急速に普及し,全量基肥用肥料の出荷量からの試算では,市販2年目(1994年)にして本県の水稲作付面積の約14%を占めるに至っている。
現在,全量基肥栽培が普及しつつある現地では,研修や指導会が多数開催され,熱心な意見交換がなされている。著者の参加した研修会も本栽培法に対する農業者の関心は高く,予定時間を超過するほど質問が殺到した。なかでも,初めて導入するに当たり施肥量をどうするかという,施肥量診断に対する要望が最も強かった。
そこで,本報では平成6年度に弥富農技センター主催の研修会で著者が講演した内容のなかから,施肥量診断法に関する部分をご紹介したい。
水稲の施肥診断は次の式で行う。
施肥窒素量=(最適窒素吸収量-地力窒素量)/利用率
最適窒素吸収量は品種によって異なり,本県では第1表に示した数値を使用している。地力窒素量は次式で行うが,詳細は北村ら2)の報告を参照されたい。

Y=A〔1-exp(-kA・t)〕
+B〔1-exp(-kB・t)〕
Y:積算土壌窒素発現量(mg/100g)
A:湿土30℃4週間培養窒素量(mg/100g)
B:全窒素の50%(黒ボク土10%)(mg/100g)
kA,kB:溶出速度定数(d-1)
t:時間(day)
ただし,
t=∑exp(Ea(T-Ts)/RTTs)
Eaエネルギー(cal・mol-1)
R:気体常数(1.988cal・deg-1・mol-1)
T:日平均地温(K)
Ts:標準温度(K)
全量基肥栽培の場合,肥効調節型肥料(被覆尿素)から溶出する窒素量の推定が必要であるが,この場合も地力窒素と同じ手法により次式で行っている1)。使用する被覆尿素は,リニアタイプとシグモイドタイプがあり,前者は第1項のみの式を使用する。
N=N1〔1-exp(k1・t)〕
+N2〔1-exp(-k2・t)〕
N:窒素溶出率(%)
N1:リニア部分最大窒素溶出率(%)
N2:シグモイド部分最大窒素溶出率(%)
k1,k2:溶出速度定数(d-1)
第2表には,土壌窒素発現量を推定するためのパラメータを,第3表には被覆尿素から溶出する窒素量を推定するパラメータを示した。第1図には現地で実測した被覆尿素からの窒素溶出率と推定式の適合性を示した。



実際には,土壌の分析データと各品種を栽培した場合の地温データを入力すれば,施肥窒素量が算出できる。すでに,施肥診断プログラムは開発されているが,いつでもどこでもできる訳ではないので,土壌分析値で簡易に施肥量が読み取れる簡易診断表を作成した。前報でも記載したが,平成7年度よりコシヒカリ用の肥料について窒素成分の種類と配合割合の内容を次のように変更したので,改訂版を第4表に示した。

従来版
LPSS100:LP70:速効性窒素=6:3:1
改訂版
LPS80:LP40:速効性肥料=5:3:2
コシヒカリでは,倒伏を懸念して,幼穂形成期での最適窒素吸収量を基準に施肥診断を行っていたが,今回は10a当たりの目標収量を600kgから540kgに変更し,他の品種と同様に成熟期における最適窒素吸収量で計算した。
第5表は,コシヒカリについて実施した試験展示ほの土壌分析値の平均値,最大値及び最小値である。それぞれの数値に対応する施肥窒素量を試算したところ,10a当たりの施用窒素量は,最小値の0kgから最大値の10.6kgで,平均値では7kgであった。このように,ほ場による窒素肥沃度に大きな開きがあることは,施肥診断の必要性を改めて示している。

土壌の分析値があれば,前述したように精度よく施肥診断が行えるが,全量基肥が急速に普及している現場では到底対応しきれない。しかし,全量基肥は,分施法のように,経験により施肥量を加減してきた施肥法と違って,一度施肥すれば少なくとも減肥修正ができない。しかし,これまでの結果をみても,慣行と変わらない収量性を得ている。
そこで,まず全量基肥栽培1年目はじっと我慢して追肥は一切実施しない。これによって,施肥量と収量性から栽培ほ場の窒素肥沃度が把握でき,翌年の施肥設計はある程度精度よく行える。つまり,栽培しながら施肥診断を行おうというのが,ここで紹介する方法である。
精玄米収量と水稲の窒素吸収量との間には品種によって密接な関係がある。そこで,施肥窒素量と得られた収量から水田の窒素肥沃度を判断する。第2図に平成3年~4年の試験展示の結果から得た成熟期における窒素吸収量と収量の関係を示した。

この結果を利用し,施肥量と収量から水田の窒素肥沃度を診断し,目標収量を10a当たり540kgとした場合の施肥量を診断できる表を第6表に示した。昨年は異常な低温年であった。低温年は通常窒素吸収を少なくした方が生産能率が上がることが知られており,図中の放物線が下に移動する。したがって,昨年の数字は診断表に使用していない。

なお,同じ収量でも窒素不足と過剰の場合があるが,これはほ場をみれば簡単に判断できる。
話の順序が逆になるが,土壌分析値も無く施肥量の診断ができない場合は,取りあえずこれまでの施肥量を基準に施肥量を決定する。一応の目安として慣行法の10%減とする。例えば,基肥に穂肥を加えた窒素量が10a当たり10kgであれば,9kgとする。ただし,健全な生育をさせるには,あいちのかおり・葵の風では5~9kg,コシヒカリでは3~7kgの範囲とする。
1993,1994年と両極端の異常気象が続いた。両年度の現場での収量性を施肥法で比較すると,低温多雨年であった1993年は慣行区より全量基肥が,高温多照年の1994年は慣行区が収量が多かったようである。しかしながら,全量基肥は平年並みの収量が得られた。このことは,全量基肥栽培の安定した収量性を示している。
一方,これまで行ってきた数多くの試験及び普及展示では全て土壌分析による施肥診断を行い,できる限りのバックアップをしてきた。今後は,各稲作農業者自らが水田の窒素肥沃度を把握し,施肥設計を立てる番である。そして,全量基肥栽培を通じ,土壌を再度見直す契機にしてもらいたい。
これからの魅力ある豊かな水田農業をめざして,省力化につながる全量基肥施肥は,今後ますます増加していくと予想される。われわれもこの状況に対応して,生育診断情報,土壌窒素肥沃度のより迅速な診断法等の周辺技術の開発を行っていく予定である。
1.今井克彦・日置雅之,鈴木智香子,澤田守男.肥効調節型肥料の溶出パターンの推定と水稲の全量基肥施用法への適応性・愛知農総試研報,25,51~60(1993)
2.北村秀教,関稔,今泉諒俊.土壌窒素発現量に基づいた水稲窒素施肥プログラムの開発.愛知農総試研報,21,47~61(1989)